「日本農業新聞」(3月6日付全国版=1面・2面)に明舞団地の取り組みが掲載されました!記者さんの詳しい取材とまなざしに感動し、ひとりでも多くの方に読んでいただきたくて「日本農業新聞」から転載の許可をいただきました。全文掲載します。
特集[農幸民族第4部 幸せを育む 2]
農でつながる 兵庫県・明舞団地 畑なら独りじゃない (2013年03月06日)
兵庫県の神戸、明石両市にまたがる明舞団地。1万戸を超える住宅を供給し日本の高度経済成長を支えたが、近年は高齢化が進む。入居開始から半世紀。2010年の人口は2万1400人で、ピーク時の6割を切った。65歳以上の高齢化率は同年で36%に上る。住民の孤独死が問題になっている「オールド・ニュータウン」の庭先で、人のつながりを生むための野菜作りが始まっている。
・住民同士で野菜 「次、何植えんねん」「肥料は臭いで、文句が来るから気ぃ付けえ」
? 団地の庭先菜園で住民が野菜談義に花を咲かせる。団地内にある商店街の空き店舗で年4回、野菜を売るのが楽しみだ。
昨年入居した坂本利夫さん(63)は毎日、昼すぎから園芸に没頭する。芦屋市でコンサルティング会社を経営していたが、人間関係のストレスで心臓を患った。会社は休業。静かな環境を求めて引っ越して来た。団地では野菜作りを教え合うなどして、コミュニティーに溶け込んでいる。
出身は県内の中山間地域だ。近所のがき大将と里山を走り回る日々。夏は「蛍の光の海」を見るのが楽しみだった。集落総出の田植え、麦踏みなども経験した。野菜作りも体で覚えていた。「土をいじり、命に触れていると少年時代を思い出す。庭先で作業し始めて、糖尿病を示す数値が正常値近くまで下がった」。人をつなぎ、癒やす農の力を実感する。
・人の輪取り戻す 野菜作りと産直市の狙いはコミュニティーの再生にある。高齢者の独り暮らしが増え、住民の閉じこもりや孤立が問題になったが、肝心の近所付き合いは活発でない。賃貸や分譲といった住宅の種別や行政区の違いなどが壁になっているためだ。
? 産直市の活動を主導する森口章三さん(74)は「道一本隔てると誰も知らん。孤独死の一歩手前の状況を何度か発見して危機感を持った」。団地で野菜を作る人だけでなく、市民農園など団地の外で野菜を作る住民にも「1品、2品でいいから産 直市に出して」と参加を呼び掛ける。
出品者は産直市を始めた10年の3人から20人に増えた。産直市の販売を手伝う協力者も出てきた。
・団地に“結”をつくる 住民は、職を求めて農村から都市に出て来た人が多く、違和感なく農作業に戻れる。
? 産直市の出品者の一人、宮崎恭子さん(65)は「スポーツは難しいが、野菜作りならできる。夫婦の共通の趣味になり会話も弾む」と話す。3月には団地の外で農地を借りるのをやめ、団地の庭先菜園に力を入れる。昨年7月からブロッコリーやレタスなどを作り始めた中村文枝さん(57)も「売れるので、何を植えようか楽しみ」と笑顔を見せる。
兵庫県は、活動初期から生産資材などに補助する事業を行ってきたが、すでに終了。県は「さまざまなコミュニティー再生の試みがあったが、団地内産直市の取り組みは本当にうまくいった例だ。補助事業が終わった後も住民が自主的に続け、輪を広げようとしている」(住宅政策課)とみる。
・活動の発展 確信 住民らは1月末、行政などの支援がなくても活動できるよう園芸グループをつくった。森口章三さんが会長に就いた。
?課題は継続性だ。産直市に出品する住民の平均年齢は70歳。「あと5年、10年早く取り組みが始まっていればもっと広がったのに」と悔やむ声もある。
だが森口さんには確信がある。「手芸クラブなどに比べ、野菜作りは敷居が低い。やる気と体力さえあれば誰でも参加できる。神戸、明石の(行政区の)垣根を越えて人が集まれるのは野菜作りと産直市だ」
・野菜が作業促す 大事に育てた野菜を売れる喜び。住民らの活動にやがて、参加したことのない人も顔を出すようになった。次に何を植えようか話し合い、好きな種をまき、水やり、草取り、害虫対策、収穫と作業が続く。野菜が人に作業を促し、持続的な活動になる。産直市は野菜の新鮮さなどが評価され、毎回完売。「年4回でなく毎月、開いてほしい」との声がある。
森口さんは「団地を一戸ずつ丹念に回って参加を呼び掛け、出品者を増やしたい。公園の草刈りなど、住民の共同活動への参加を増やす糸口にする。この団地に、新しい“結(ゆい)″を創造したいんや」と話す。【日本農業新聞】
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