三日目、若奥様は「うどん玉を一つ」といったあと「三つ分のお代です。」と、一分銀を卓子(たくし)に置いた。「こんな大金を。ではお釣りを」と言いかけると「いえ、どうか」と丁寧に頭を下げ、うどん玉を受け取るやいなや急いで出ました。うどん屋は若奥様の弱弱しい足取りを姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていました。
それから卓子の上の一分銀を手にしようとしたが、ない。いや枯れ葉が一枚きり。
「だまされた!古きつねやったんや。若奥様に化けよったんや。許せん!どうせ土手のどこかに住みついているに決まっている」と棒切れを手に飛び出した。しかし、土手への入口の細工御門はとっくに閉まっていて侍衆でなければ入れない。明くる日、どうせ老樹の根元あたりだろうと、うどん屋は探し回った。笹藪などもかき分け根元をさぐるといた。大きな穴の入口に息も絶え絶えな白狐がいた。その奥には子狐が何匹か眼を一杯に見開いている。竹の皮もある。
うどん屋は、その白狐の薄眼の奥に「この子らのためでした。許して下さい。」と必死に詫びているのがよく分かった。つづく